———圧倒的に素晴らしいデザイン、そして、レトロから宇宙を彷彿とさせる近未来へと、異次元のもので構成されたかのような空間で驚きました。こういった建築にしようと思ったのは、三澤社長のご意向ですか?

三澤社長 京宝亭は1985年(昭和60)に創業しており、親会社である「宝食品」のパイロット店としてスタートしました。1993年(平成5年)観光ブームでこの小豆島へ観光バスがたくさん来てくださるようになり、土産店として年中無休で営業しておりました。宝食品をPRする店に生まれ変わるとの方針から、2019年6月に一旦店を休店し、左海醤油工業(株)さんのもろみ蔵とバスの運転手さんの休憩所としていたこの場所を、長尾先生の素晴らしいデザインのもと改装し、宝食品のミュージアムとアンテナショップとして2020年2月にリニューアルオープンしました。

———フェリーから降りて車を走らせていると、醤の郷(ひしおのさと)に入りどんどん景色が変わってゆき、古い歴史のある建物がたくさんあるエリアに達しました。その中でもこの別格のモダンさと、レトロな建築の融合がひときわ目立っておりますね。

三澤社長 そうですね。夕方になると長尾先生がやりたかった照明が際立ちます。

長尾先生 施設全体が看板そのものなので。地域の中でも京宝亭さんが核になり、リーダーシップになってくれることを願って止みません。

三澤社長 近隣の同業の会社さん達もライバルではあるんですが、醤の郷の地域で「一緒に盛り上げ、お客様をお迎えできるようにしてゆきたい」という意識を持ってリニューアルにも取り組みました。

山本室長 地域の方も大変喜ばれています。特に夜の景観は辺りの雰囲気を一変させますから。

三澤社長 2020年7月29日(水)※2020年7月16日(木)取材時点 の《一粒万倍日》にカフェをオープンします。本来は佃煮や釜飯、お粥などたくさんのメニューをご提供できるよう考えておりましたが、コロナウイルス感染予防の観点上、一旦ストップし、まずはお飲物とアイスだけのご提供でスタートします。カフェの座席も間隔を空け、お客様にゆったりとお過ごしいただけるように配慮します。お飲物としては、味して京宝亭オリジナルブレンドコーヒーも誕生しました。

———京宝亭オリジナルブレンドコーヒーですか。何か特別なコーヒーなのでは?

三澤社長 コーヒー屋さんと一緒に味見を繰り返しながら配合しました。今後も試行錯誤しながら改良してゆく予定です。

———それは楽しみです。全てに細心の心配りがなされているのですね。長尾様は、こちらの建物をご覧になられてすぐこのイメージが浮かばれたのですか?

長尾先生 まず、こちらの建物の動線が気になりました。そこで、元々あった大きな水車を外してその部分を増築し、入口を変えようと考えました。そして、その外した水車をシャンデリアとして使おうとしていました(笑)。ボリュームも凄いし、工夫すればシャンデリアになる。その中からこの吊りランプが降りてくるイメージにしたかったんです。圧巻だと思いませんか!ですが、水車がシロアリにやられており使用できませんでした。断念した時の、大工さんのホッとした顔は忘れられません(笑)。

———そぜひ拝見したかったです!しかしながら、圧倒的な量のこのランプはコレクションだったのでしょうか?

三澤社長 以前、《二十四の瞳》の映画村内にも売店を出店しておりまして、当時の経営者が骨董品店を巡り集めていたものですね。36個のランプを、長尾先生がLED電球に変えて、よみがえらせてくださいました。

長尾先生 最初はこれだけの数があると思いませんでした。

山本室長 このランプ同じ形に見えますけど、よく見ると一つひとつ形が違うんですよ。

———小豆島だけではなく、日本中から集められたのでしょうか?素晴らしいですね。レトロなのですが、人工衛星のようにも見えます。人工衛星と言えば!2020年3月13日(金)にこちらの「ちりめん山椒」が国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙日本食に認証されたそうですね。

三澤社長 宇宙では運動不足、カルシウム不足になりがちなので、このちりめん山椒でカルシウム分を補っていただけます。その他、非常食も取り扱っておりまして食物アレルギー特定原材料等不使用です。水や調理は不要で、開封してそのまま食べられます。今後も色々なことにチャレンジしてゆきます。

———小老舗の佃煮屋さん、お醤油屋さんといいますと歴史・格式というイメージが強いですがお話を聞いていて、JAXAや非常食など様々なことに挑戦される姿勢が素晴らしいなと感じました。

三澤社長 人口の減少と並行して、ご飯の消費量の減少や原料の高騰など様々な問題があります。小豆島には、21社の佃煮屋があるのですが、今まで培ってきた技を活かして佃煮以外の商品も数多く作ってまいりました。このような動きが挑戦なのかな?と思います。宝食品の社長の大野は、盛田㈱の取締役として品質管理および工場長を務めていましたので、なおさら品質管理については、力を注いでくることができたのだと思います。

———やはり、この「新しいことに挑戦する!」という社風が、ただ歴史を守るリノベーションではなく、実験的な要素も取り入れた建築デザインとなったのでしょうか。

三澤社長 そうですね。実際の工事は、島の工事業者さんが主だったのですが、「長尾先生がとても柔軟な対応をしてくださり、「こんなにスムーズに仕事をすることが出来たことはない」と皆さんがおっしゃっていました。私自身も、たくさん勉強させていただきましたね。

———三澤社長も現場に任せるだけでなく、ご自身でお知りになりたかったのですね。

長尾先生 古い建物を触るのには、臨機応変さとスピードが無いと人に迷惑をかけてしまいます。いわゆる、水平垂直が無いので。こちらの建物は、明治時代に建てられており原図が無かったんです。私はこれまで数々の古民家に携わってきましたが、この世界ではよくあることです。採寸をし図面を引くところからスタートしたのですが、まず現地調査が大変でした。配線一つにしても、図面に表現しきれない!この壁の位置も現場で決めましたから。正直、新築より改修計画のほうがリスクがあり難しいです(笑)
工務店さんも電気屋さんもそれは、とても大変だったと思います。

三澤社長 そんな中、私は工事のことは何もわからず現場に行き、「これ何?」「何の工事?」と色々聞いて回ってましたが先生は、色々丁寧に教えてくださいました。

———そうでしたか。山本担当室長は照明計画に携わられましたね?いかがでしたか?

山本室長 先ほどお話に出ましたが、水車!これは見てみたいと思いましたね-(笑)最初、長尾先生から「これをやりたいんだけど…」とパースを見せていただき、「これはすごいな-!」と(笑)。結果的に、このLED電球で生まれ変わったレトロモダンなランプで、味とインパクトが出て、先を見た仕上がりにまとまって良かったな~と思います。ダウンライトだけじゃ寂しいですからね。

———照明の部分で一番試みた部分は、やはり商品台ですか?

長尾先生 そうですね。私もJAXAのお話を聞いていたので、意識しました!モダンなことをしようと!商品台の照明手法も少し変わってるんですよ。イメージはステージのバックライトです。ステージでは、踊り子さんが踊り、ライトが当たってますよね。その考え方です。踊り子さんを商品に見立ててミニチュアで手法を施しました。そんなの見たことないでしょ?(笑)。私も、初めての手法で勉強になりました。JAXAのお話を聞いてなかったら、また別の考え方になってたと思います。レトロレトロ感みたいな。それはそれで悪くないですけどね。

三澤社長 野口聡一さんが宇宙に旅立つ予定※の10月末までには記念品を発売したいなと考えています。

———JAXAファンの私としては先ほどからワクワクしっぱなしです。その記念品もぜひ購入したいと思います。三澤社長は、この新しくリニューアルされたお店でお気に入りの場所はおありですか?

三澤社長 上を眺めると、ランプがわーっとあってその奥に凧を並べて飾ってあるんです。この凧はうちに古くからあるものを飾っていただいています。この空間が好きですね。それに、夜の外観もすごくいいんですよ。

山本室長 昼と全く違う顔になりますからね。

長尾先生 静と動があるこの素敵な場所にあるから、なお良いと思います。

———では、三澤社長のこれからのビジョンをお聞かせ願えますか?

三澤社長 この佃煮の業界は少し厳しくはなってきてますが、親会社の「宝食品」には若い社員が入社してきております。どんどんフレッシュな若いメンバーが揃って、たくさん勉強して、垣根を取っ払っていけるようにしたいですね。そしてとても良いお店を作っていただけましたし、この醤の郷に訪れたお客様がゆったりと集っていただける場所になるといいなと思います。

長尾先生 なっているでしょうね。一年後が楽しみです。この状況(コロナ渦)が落ち着くと、また新たな要素が生まれるんだろうなと思います。

———そうですね。きっとこの醤の郷の中心基地になりますね。どこを撮ってもフォトジェニックなこの空間で、ずっと伺っていたい素敵なお話でした。本日はありがとうございました。

優秀な照明施設として「京宝亭」は照明学会で2019年照明普及賞※を受賞しました。

※照明普及賞:照明普及分科会は、昭和32年(1957年)創設以来、その年に竣工した優秀な照明施設を「照明普及賞」として表彰してきました。施設の企画、設計、施工などに多大な功績のあった個人、法人またはグループに与えられます。賞の選考にあたっては、視環境、照明技法、照明効果などの観点から総合的に審査されます。 (一般社団法人 照明学会 ホームページより引用)


宝食品様は2017年11月にISO22000※1(食品安全規格)を取得され、2020年10月1日にFSSC22000※2を正式に認証されます。
※1 ISO:国際標準化機構が定めた規格。「ISO22000」は、食品の安全性に加えて品質マネジメントシステムの認証。食品を安全・安心にお客様にご提供するためのシステム。 ※2 FSSC 22000:「ISO 22000」に追加要求事項を加えた食品安全マネジメントシステムに関する国際規格。(京宝亭様ホームページより引用)


建築・内装・家具施工 有限会社壷井工務店、株式会社デザインセンター
設備施工 有限会社長谷川電工
造園施工 有限会社岩本松香園
インタビュー・文章 宮地電機 広報・デザイン課 菅野 乃美
建築写真 高橋 彰
人物・イメージ写真 宮地電機