「北浜W」様の場合

100年前に建てられたヴィンテージな倉庫には、印象的なドレープカーテンと大きなアンティーク調のシャンデリアが吊るされ、まるで海外のウエディングに参列しているかのような錯覚を覚えます。瀬戸内の新しい人気エリアとして、平日でも訪れる人の絶えない北浜alleyの一画に、ひと際魅力を放つ「北浜W」が誕生しました。

———一歩足を踏み入れた途端、我々スタッフ一同「わぁー...」という声が出てしまいました。60年代NYの"SOHO"をイメージなさったとのことですが、この海沿いの古い倉庫街は日本とは思えない雰囲気ですね

山本担当室長 外観とのギャップに驚かれたと思います。

森様 弊社は元々、衣装を取り扱う会社です。業務拡大で披露宴のプロデュースを始めた時から、自社のウエディング会場が欲しいとずっと思っていました。海外では、倉庫でよく結婚式を挙げています。プロジェクトチームを作り、装飾品やテーブルを大きなキャラバンに積み込んで運び、ウエディング会場に仕立て上げるんです。そういうイメージを実現したいと加藤さんに伝え、以前から気になっていた、この倉庫の物件をお借りしました。

加藤様 この場所は、戦前から綿を扱う倉庫でした。この高い天井と味のある壁、中二階を含んだこのダイナミックな空間をどう活かすかを考えて...一番に思いついたのは、まさしく"SOHO"のイメージでした。その後、別の会社のオフィスとして機能させていましたが、森様から「どうしてもこちらが良い」とのお申し出を受けまして、この北浜Wへとリノベーションしたんです。

森様 倉庫は探せば色々ありますが、この場所の一番の魅力は何と言っても"北浜alley"にあること。ウォーターフロントがあり、ロケーションも良くて。そして、当社で挙げる結婚式は、60~70名が主ですので、ちょうどいい坪数でもありました。

───ウエディング会場というと、外界から隔絶されたイメージがありますが、こちらは外光も入り、倉庫の窓からは当日の天気も感じられます。ナチュラルでいて崇高な、非常に魅力的な空間ですね。加えて、常設の照明と演出の照明が混在し、全てが相乗効果になり、とても素敵です。入口のアイアン(鉄)の球体の照明もインパクトがありますね。このアイアンキャスト様式の建物にピッタリです。

森様 空間の中に何かモチーフが欲しいと、加藤さんに相談していました。そんな時、京都のアンティークショップで、見つけたんです。新しい照明をつけるのではなく、程よく錆びて味があり、ある程度大きさもあるこの球のようなアイアンを照明にすると目に留まるなと思い、宮地電機さんに、アイアンに合うLED照明を仕込んでいただきました。

───ウエディング会場は、真っ白真っさらというイメージがありますが、あえて時代を経たものをリノベーションすることをコンセプトにされたのですね。

森様 はい。一般的には、真っ白の空間の中にシャンデリアがある、エレガントな会場が多数です。その「真っ白の会場に負けない雰囲気と、楽しさをゲストにも伝えたい」。と考えてくださる方が、主にこの会場をお選びくださっています。いわゆる個性派ですね。個性といえば...何と言っても、この会場に入ってすぐ目を引くこちらのシャンデリア︕圧巻です。

加藤様 森さん曰く、この会場のシンボルを作りたい。大きいシャンデリアが欲しい︕とのことでした。

山本担当室長 こちらのシャンデリアは一番下の枠の直径が約2000mmあります。最初は、縦長で直径1500mmのシンプルな形だったんですけど、打合せのたびにどんどん大きくなってゆきました(笑)。あまりの大きさに、バラバラに分解した状態で灯具と共に大阪の工場から11tトラックで運びました。その後、アンティーク感を出すため、この場所でエイジング塗装を施しましたが、とにかく大きくて重くて...大変でした︕(笑)光源はLEDを使用していますね。色温度はどのくらいですか︖

山本担当室長 2700Kです。森さんは照明の知識もおありで、実際に光を見たいと仰り、光の角度や、きちっと集光され対象物が引き立っているか︖ という点まで見ていただきました。

森様 「テーブル全体に当てる光と、テーブル中央を照らすピンライトを上手に使っているのがいい空間づくり」と教わったことがあります。この教えを、ずっと実現させたいと思っていました。ウエディングに関して、照明を重要な位置づけにしてくださり、感激です。ときわ様では照明のお勉強もなさるのですね。

森様 はい。その他にも、上から照らすダウンライトと、下から照らすアッパーライトの心理的な違いも教わりました。本当に照明は大切だなと思います。

山本担当室長 内装を素敵に作り込んでいるのに、最後の照明で台無し。なんてことは絶対に許されません。

───山本担当室長が今回の照明設計で心がけられたことは何ですか︖

山本担当室 長今回は、ご覧の通り素敵なディスプレイが並んでいます。何と言ってもウエディング会場ですので、何にでも対応できる様に光がフレキシブルでないと...と考え、スポットライトを多用しています。後は、制約に従った電源の位置や「ディマー」を使用し調光可能にすることで、森さんが多種多様なシーンに合わせアジャストできるように心がけました。

───最上の照明設計の中での、シーンに合わせたフレキシブルさ。相反する課題を見事に両立させられており、流石です。加藤様にお伺いしますが、こちらの建築材料や手法にこだわりはおありでしたか︖

加藤様 この倉庫をリノベーションする際、力強いものを持ってこないと、この空間に同化し負けてしまうと思い、主な材料はコンクリートを使用しました。そのコンクリートにエイジングをかけたり、こすったりなど加工を加え、いかにこの大きな建物に馴染むかを考えました。倉庫の力強さやこの梁組みに勝るものはないので、「出すぎず、邪魔せず」を心がけましたね。

───エイジング加工されたコンクリート壁が、この力強い梁やブリッジとうまく調和し、さらにドレープカーテンで女性らしさがプラスされ、絶妙のバランスです。

森様 現在、この会場のプチリニューアルをお願いしているんですよ。この先も、お客様のニーズに合わせて、やりたいことがたくさん出てくると思うので、少しづつ形が変えられるようにしてゆきたいです。ある意味、完成はしないのかなって思います。完成を追っかけていく感じで(笑)

───素敵なお言葉です。そしてまた北浜alley内に新たにチャペルをお作りになると伺いました。

森様 はい。次に誕生するのは、ガレージ感を活かしたチャペルです。

加藤様 港町を中からも外からも感じられるチャペル。だから、鉄骨が錆びていても床を張り替えなくても、そのままでかっこいいんです。今あるものを力強く残してゆきたいですね。

───ガレージ感を活かしたチャペル︕楽しみですね。
素敵な空間で、素晴らしいお話をお伺いすることができました。ありがとうございました。

そして、2018年4月13日、同じく北浜alley内に「KITAHAMA CHAPEL」がオープンしました。

「KITAHAMA CHAPEL(キタハマ チャペル)」の照明設計にあたって、最初にイメージしたのは"ヨーロッパの宮殿"でした。大広間の低い位置に吊り下げられているシャンデリアのようなノーブルな灯りで照らそうと...しかし、打合せを重ね、最終的にはフィラメントを吊るす形に落ち着きました。実際に完成させてみると、海を背にした逆光のロケーションとシンプルなフィラメントの照明がうまくマッチしました。建築デザイナーの狙いはここだったのかと、思いましたね。照明設計に携わる者として、どんな空間を創りたいのか一生懸命引き出す、という事が最も大切だと思います。

インテリアデザイン担当室長 山本行洋