【香川県丸亀市】多田善昭建築設計事務所様
多田善昭建築設計事務所様の場合
徹底的にこだわって実現した、ひと筋のあかり
数々の優れた建築を手掛けてきた、香川県の建築家・多田善昭氏。2017年2月、多忙を極める中で先送りにしてきた、ご自身の新しい仕事場が完成しました。多田氏とともに優れた建築を作り上げてきた、卓越した職人たちの最高技術が結集する、機能的で美しい建物です。宮地電機は設計段階から参加し、多田氏の理想の明かりを追求。試行錯誤を重ね、専門的な知識と技を駆使して究極の明かりを実現しました。
———事務所の新築おめでとうございます。
大変個性的で素敵な建物ですが、どのような事務所にしたいとお考えでしたか?
多田 実は20年前から構想があり、レンガ造の建物を考えていました。しかし、現場が続いてタイミングを逃し、その間に考えが変わり木造の「貫構法」で建てることにしました。本山寺五重塔の解体保存修理における経験が大きく影響しています。 建築の考え方としては、人間の機能上からのスケールを確保するために 1,200モジュールで設計しています。私の部屋には3,600の机を置くこと、資料が確実に見られるよう本棚と書庫を作ることを決めました 1,200のグリッドで切っていくので、スタッフ一人の空間も大きな机が置けるよう 2,400スケールで取っています。個々を大事にしながらも、連携がとりやすい事務所にしたいと考えました。その結果、私の部屋の前で「おーい!」と言えば、全員がひょいと顔を出し、コミュニケーションできるレイアウトになりました。
——— まず、幻想的な美しい光が迎えてくれるこの広い玄関ホールに驚きました。
多田 玄関を入って、真正面が打ち合わせ室です。最初は、この部屋の障子を通したやわらかな光と、上がりがまちの下の間接照明だけの予定でした。
山本 岡林さんから「CGで見ると暗すぎるようですが大丈夫ですか?」と 電話をもらい、「打ち合わせ室の上に天井を照らす明かりをつけましょう」と提案したんです。 今回は多田先生の「こんな明かりにしたい」というイメージを実現するため、初めての試みがいろいろありました。CGで精密に作りこみ、確認しながら微調整をしました。
多田 上がりがまちの下のライン照明は、CGで見ると両端に影ができていました。きっぱりとした直線にしたかったので、壁のボードを7mmくり抜いて照明器具を奥まで差し込んでいます。
———玄関ホールの壁は、整然とデザインされた美しい板張りですね。 広い玄関ホールですが、ドアはあえて小さくされているのですか?
多田 ここは風が強いので、煽られないように小さく重いドアにしました。金属のドアに塗装をしているので重いのです。ちょっとした来客応対はホールで済ませられるように玄関ホールは広くしました。ここに、小さなテーブルを置くつもりです。昼間は小窓から自然光が入り、十分な明るさが得られます。
———詳細なお話しは打ち合わせ室でということですね。 こちらは凛とした雰囲気の座敷です。
多田 床にも図面を広げられるから、床に座す方が機能的なんですよね。この部屋は、用途に合わせて3種類の明かりを使い分けることができます。打ち合わせの時は明るいLEDで昼の明かりを、ちょっとお酒を飲みながら 話しましょうかという時はダウンライトの明かりを。誰もいない時は小さな スポットライトが太鼓張りの障子を照らし、玄関ホールの明かりとなります。これも岡林さんのCG で検証しながら実現しました。
岡林 オリジナルの建具だったので、図面を見ながら作りました。多田先生も山本担当室長も、「やってみないとわからない」とおっしゃる 中で、極力現実に近い光を再現しました。
山本 その結果、完成写真とCGと区別がつかないほどでした。 本当に精巧で、照明設計はずいぶん助けられました。
多田 この壁をよく見てください。凹凸があっておもしろいでしょ?薄いしゃぶしゃぶの漆喰を6 回重ねて塗っています。寒冷紗の上に塗っているので、微妙な凹凸があり、光に映えるんです。白ではなく、淡いグレーで光を生かしたところがまたいいんです。
——— 玄関の外の照明にもこだわっていらっしゃいますね?
多田 外階段は御影サビ石を用いています。段と段の間から明かりが抜けるよう、中に照明器具を仕込んでいます。ポーチはドアと石のすき間からひと筋の光がもれ、玄関扉とポーチを照らすようにしたかったんです。訪れた人は、光の線を越えて入る。結界を越えるようなイメージで山本さんにお願いしました。
山本 これも苦労しました。LED の直進する光だと、それをまたぐときに眩し過ぎるんです。1ミリ単位で調整し、拡散剤が入ったアクリルを通すことでやわらかな明かりになりました。「これ行けそう!」となった後も、そのアクリル素材を固定するのも大変だったんです。鋼製建具屋さんに特殊な金物を作ってもらったり・・・。現場の人たちの執念でできた明かりです。
——— 玄関の外の照明にもこだわっていらっしゃいますね?
多田 サインに光をあてるのも大変でしたね。四角いステンレスの板に「ピッタリの大きさで明かりを当てて欲しい」とお願いしたんです。山本さんは美術館用のスポットライトを持ってきてくれたのですが、はじめはサインの真ん中あたりをぼうっと照らす明かりにとどまっていました。
山本 「何とかします」ということで、枠より20㎜小さかったのですが、ぼかすフィルタを取り付けたら、これが想定を超えた美しいグラデーションでサインを浮かび上がらせてくれました。嬉しくてその場で写真を撮ってすぐ先生に送りました。
多田 求めていたものを超えていて、見た瞬間気に入りました。「ありがとう!これでいこう!」となりました。
——— 建物の形も美しいです。大きな屋根が特徴的ですね?
多田 土手の上から全体が見えることもあり、「大きく覆う屋根」を考えました。構造屋根の上に置き屋根をかけ、外断熱の二重構造になっています。また、妻側に車を停める話を聞いた板金屋さんが、車の上に水が落ちないようにと細い樋をつけてくれました。
山本 それぞれの分野で高い技術力が見えますね。夜になると照明が映え、建物の美しさが一層引き立ちます。
多田 そうですね。夜は光に包まれ、浮かび上がって綺麗です。ご近所の方は飲食店か何かができたと思っている人もいるようです(笑)。様々な実験や試みができたという点では、自分の仕事場ならではでした。創ってみたかったひとつの建物。それが注目を集めるのは設計事務所としても嬉しいことです。
多田善昭建築設計事務所
〒763-0095 香川県丸亀市垂水町川原16-48
TEL 0877-58-6625
○ インタビュー 宮地電機 / 〇文章 深田美佳 / ○ 写真 湯川敏