耐震工事をされたということですが、通常の耐震工事のイメージとはずいぶん異なりますね?

米田:

はい。通常は、鉄骨ブレースによる耐震補強が一般的だと思いますが、この町のイメージにそぐわないということで、建物自体の改修工事を行いました。

古林:

つるぎ町は、うだつの町並みを保存することを施策に上げています。古いものだけでなく、町並みとして調和がとれている建物も保存の対象です。44年前に建てられたこの庁舎は、デザイン的に優れていて町民が深い愛着を持つシンボリックな建物です。鉄骨ブレースを組み込むと、建物のイメージが変わってしまいます。

米田:

老朽化していることから、町議会でも建て替えを望む声がありました。しかし、建て替えにかかる半分の費用で改修ができれば既存の建築を残せると考え、多田先生に相談しました。 多田先生には、半田小学校の改修をお願いした際、他ではできない素晴らしい設計・施工をしていただきました。今回もこの庁舎のデザインを生かして、さらによい建物に再生していただけると思いました。

多田:

鉄骨ブレースによる耐震補強は、コストは安いが機能的な改修ができません。庁舎としての機能を高めるため設備を総入れ替えし、全面改修して長寿命化することを提案しました。照明をすべてLED化することで、改修後のランニングコストも抑えられます。

米田:

「コストは安いが、ブレーカーなんて骨董品レベルで漏電の危険がある」と言われるほど、設備の老朽化はかなり進んでいました。

古林:

米田さんは、設備の配管をすべて自分で歩いて調べ上げ、再設置の方法も自ら提案していました。それだけ現場に精通しているから、何事も決断が早い。米田さんのことは、みんな「親方」と呼んでいました。

米田:

自分でやらないとわからないし、決めてあげないと現場は動けない。手待ち無沙汰になって仕事が進まない状況になるのはこちらも困ります。

多田:

米田さんが何事も現場で即決してくださったこと、すべて議会に報告して理解を得てくださったことが、とてもありがたかったです。
それがなくてはこの仕事はできませんでした。
「残してゆくべき建物」という考えで、全面改修となったのですね。

米田:

はい。改修の打ち合わせが始まってすぐに、時計塔をどうするかという議論がありました。外で農作業をする人たちが日々頼りにしている時計です。主たる目的は耐震ですから、高いものは切り取った方が安全だという意見がありました。しかし、「愛着のある時計を残して欲しい」という町民の声もあり、悩みました。

多田:

日々利用していた人がいるのですから、なくしてしまうと絶対に「あった方がよかった」という声が出てきます。災害時、役場は避難所となり、救援・復興の要となります。その時に、役場のシンボルは必要です。時計塔があるのなら残すべき、明かりを灯してさらにシンボリックにしようと提案しました。

古林:

町を出た人たちが久しぶりに故郷に帰ってきたときに、時計がないと淋しい思いをする。ただ「必要ない」「残すとコストがかかる」という目の前のことではなく、「10年後に責任を持ちたい」と、残す気持ちが固まりました。時計の下で待ち合わせして同窓会へ。そんな町っていいですよね。

山本:

時計塔のライトアップは、19mの塔を均一に光らせる明かりが必要で、町の景観を損ねる眩し過ぎる光はダメ。雨ざらしに耐え、台風で飛ばされない照明を考えました。10年後に責任を持つための明かりですから、常に先のことを考えて設計しました。
今回、照明をすべてLED化されたということですが、大きく変わった部分について教えてください。

山本:

一番大変だったのは、町議会の議場です。多田先生の「星空のような照明に」という発想で、天井に50の小さな照明器具175個を散りばめました。議場の天井は、梁やエアコンの配管を隠すように設計してあって、後ろから前へ、両端から真ん中に向けて傾斜しています。この複雑な天井にどう取り付けるか、光をどう向けるか、設計段階ですでにメチャクチャ難易度が高かったです。

多田:

ひとつひとつの光が町民の意見である。星空にはそんな意味を込めました。山本さんが「こんな器具があります」と情報をくださって、実現に向けて試行錯誤を重ねました。LEDの光は方向性が強く一方から当てると強い影が出るのでいろいろな方向から当てないといけません。机上は500lxの明るさが必要ですから、天井に散りばめた器具の光を調整することで、影をなくそうと試みました。山本さんと一緒に、東京の山田照明に出向いて商品開発部のメンバーと実験もしました。

山本:

どこにどう器具を配置すればいいのか、本当に大変でした。机の面で500lxになるように計算して図面を起こし、3DCGで確認しながら器具の取り付け位置と、光を当てる床面の位置を決めていきました。影をなくすためには、必ず真上からの光が必要です。席の数だけ、真下を向いている器具があります。あとはランダムに散りばめ、1つの机に最低3つの光が当たるようにしています。

多田:

取り付ける職人さんも大変でしたね。ひとつ付けては、床の印を狙って照射を確認して...という作業でした。

山本:

光の軸を確認するため、器具の先に自分たちで作ったレーザーポインターを取り付けました。また、光の向きを微調整する器具も自前で作りました。あの天井の照明は、チーム力の賜物です。

多田:

3DCGで作り込むうちに、天井がねじれて3次曲線になっていることを岡林さんが発見したんですよね?

岡林:

CGの制作は、ベースから形を起こすのに1ヵ月ほどかかりました。天井の形状が難しくて、スチレンボードを切って実際に模型を作ってみたんです。すると、ねじれている...。

山本:

「そんな訳がないだろう」と思いました。「でも、ほらねじれているでしょう?」と言われて...。

多田:

私も図面上では気がついていませんでしたが、三次曲線になっていたんです。それによって、エアコンの吹き出し口が1.5mmずれてしまい、職人さんから「どうしましょう?」と相談の電話をもらいました。この面倒くさい天井を、なぜ創りたいか、なんのために創るのか。そこを議会をはじめ施工業者さん、職人さんも皆さん理解してくださっていたからできたことです。

議場の正面にも、素敵な間接照明がありますね。

多田:

議場正面に大きな漆の壁を立て、その後ろから光を当てています。これは、地元の伝統工芸 半田漆器からイメージしたものです。漆は香川県の職人さんにお願いしたのですが、大きさに驚きつつも腕を振るってくださいました。これは年月を経て透明感が増し、さらに美しくなります。次世代に受け継ぐもののひとつです。議場の椅子はこの漆の色に合わせて選びました。

そして議場の後ろにも明かりがあります。

多田:

岡林さんに用意してもらったCGを眺めていた時、議長席からの視点が定まりにくいことに気が付きました。議長が円滑に議会を進められるよう、視点が迷わず正面に向くように、柱の両脇から目標となる明かりを降ろしました。
明るい光があふれるエントランスも印象的ですね?

古林:

とても大きな屋根がありますが、軽やかなデザインで、来る人を迎える「ウエルカム」な空間になっています。

多田:

改修前、玄関までは5段の階段を登らなければならず、それを避けるためには隅に後付けされた小さなスロープを利用する他ありませんでした。そこで、今回はスロープをメインにし、階段を小さくする計画にしました。雨が降ると滑りやすくなるため、それを覆う大屋根が必要になりましたが、重たいイメージにならないよう軒先をシャープなフォルムに仕上げました。改修後に写真を撮りに来たら、ほとんどの来庁者がスロープを使ってくれていて、大成功だと感じました。

山本:

ここの照明も苦労しました。多田先生からは、「スロープの上りはじめを明るくしたい、暗いところがないよう床面を均一に照らしたい」との要望がありました。LEDの光は直進するので、それを拡散して広い面積を照らす方法も考えなくてはなりませんでした。いろいろ実験し、光を拡散するアクリル材に決めました。

多田:

私たちは、安全で機能的なよい建物を創るのが仕事。設計者として、それを成し遂げるための技術を要求し続けなくてはならない。私の「どうしても」という要望に、山本さんが光を拡散させる素材を探してきてくれました。これがなければあのエントランスはできなかった。今回の改修にあたり、全面LEDに移行しています。球交換の手間が要らず、省エネでコストが下がるというメリットがありますが、どうしても光がキツイ。影も出る。その性質に勝ちたいという思いがあった。デメリットを克服して「いいあかりをつくるんだ」という強い気持ちがあり、実現できたことだと思っています。

古林:

確かにLEDの光は刺すような光で、残像が残ってしまいます。いいイメージがありませんでしたが、どこもやさしい光があふれる庁舎になりました。
実際に運用してみていかがですか?

米田:

職員たちは、「明るくなった!」と喜んでいます。センサーで室内の明るさを感知し、照明の明るさを自動調節するので、事務所の窓側と廊下側では点いているランプの色が違います。職員にもお客様にも、省エネが目に見えるのがいいですね。

山本:

こちらの照明器具は、すべて最新のLEDを採用して空間に合うようにしています。

多田:

行政の人がいいものを使いこなす姿が見えるのは、住民にとって嬉しいことです。LED照明によって財政の倹約になっていると理解していただけますし、「これからの時代はこの方がいい」という情報の流布にもつながります。いずれは、時計台に電気が点いているのも良いことだと理解していただけると思います。

古林:

住む人たちが、だんだんと無意識のうちにそう思うようになるでしょう。よその町に行った時に「うちの町には時計台があって夜も安心だ」と感じてもらえればいいですね。

山本:

1階のカウンターや床など、前の建物のいいところもたくさん残っています。町民のみなさんにはそれも嬉しいところですね。

米田:

もともとのいい建物が、多田先生が手を加えてくださったことでさらによくなり、町の新たな財産になりました。これからも長く愛される建物になると思います。ありがとうございました。

-協力-
「つるぎ町 本庁舎」tokushima-tsurugi.lg.jp
779-4195 徳島県美馬郡つるぎ町貞光字東浦1番地3 TEL(0883)62-3111

-リンク-
「僕らのHERO -山本 行洋-」bokurano-hero/yamamoto

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