登場人物紹介

木のぬくもりに溢れたとても素敵なお住まいです。棟梁ならではの素晴らしい細工と、より抜きの材料が随所に見られます。ずっと木造住宅を手掛けて来られたのでしょうか?

はい。ずっと木造専門でやってきました。誰にも負けない技術を極めたいと思い、26歳から2年ほど京都で宮大工の修行をしました。そこでさまざまな高い技術を身に着けることができました。

欄間

木造の建物には、何よりも「木を見る目」「そして適材適所を判断する力」が必要だと伺ったことがあります。

そうですね。「家を建てるなら山を買え」と言うくらい、その土地で育った木を使うことで環境に合った家を建てることができます。同じ桧の苗木でも、田野町と大正町では土の質が違うので、木の色が違ってきます。田野町で育った桧は赤く、大正町の桧はピンクです。アジサイの色が土壌によって異なるのと同じです。

欄間

それは存じませんでした。驚きです!

木は、育つ環境によってそれぞれ異なります。日当たりによって枝の出具合が違うので節の数に影響しますし、厳しい条件にある木ほどストレスがかかってまっすぐには伸びません。年輪の形も複雑になり、木材にしてからも、後々反りや曲がりが出ます。

以前、京都の西本願寺の大きな梁を修復する際、美しいカーブを表現するために、崖のところに生えている「根曲がり」の木を日本中探し、それが四国にあったと聞いたことがあります。やはり四国の森林は木材の宝庫なのでしょうか?

それは高知県の西の方ですね。高知県は急峻な山が多いので、根曲がりの木があります。確かにこの四国には優れた木材も多いです。

家を建てるということは、技術はもちろん、木について知ることが大切なのだということがよくわかります。

部屋
「綺麗な家を造りたいのではない」

技術が勝ち過ぎると、裃(かみしも)を着たような家になってしまいます。木の曲がりや木目、色合いなどを生かしながら作るのがおもしろいと思っています。僕は綺麗な家を造りたいのではありません。皆さん、「落ち着く」「ホっとする」と言ってくださいますね。

尺柱

確かに「ホッ」と和みます。それでいて、高い技術と素晴らしいセンスが随所に見られますね。柱もとても立派です。

尺柱ですね。今はめったにこんな柱は使いません。 僕は、100年持つ家を造りたいと思ってやっています。家は後世に受け継がれていくべきもので、この家は100年後さらに価値あるものになります。今、僕たちが見て「昔の人はすごいなぁ」と思う建築物がありますが、それと同様、歴史に残る家にしたいです。 そして僕自身、それができる最後の職人だと思ってやっています。 これから人口がどんどん減少していくと、新しい家は建たなくなります。100年持つ家はリフォームしないといけない時期が来ますが、その時、抜いていい柱、いけない梁など基本がわかっていないとリフォームできません。そのためにも、今、息子や若手職人に技術を継承しているところです。

尺柱を見て100年持つ家を実感しております。今回は照明器具と窓廻りを当社が担当させていただきました。

空間

社長とは、もう15年来のお付き合いをさせていただいております。社長は現場で造りながら考えるという感じで、事前にご提案するというよりも現場打ち合わせがほとんどでした。

インテリアコーディネートの観点からしますと、この木の表情が大変美しい空間に対して、エアコンや照明器具などの人工物はノイズのように感じます。

今は夏の気温が高いので、エアコンは必須。24時間換気を入れていますが、そういった現代の機器と伝統との融合が今後の課題となるでしょうね。

リフォームのお話がありましたが、エアコンは埋め込んで見えないようにしたらスッキリと仕上がりますが、交換の時に大変ですよね。照明器具も耐用年数がありますから、こちらも数回入れ替えをしないといけません。メンテナンスと美的なバランスが重要なポイントとなって参りますね。こちらのペンダントはとても素敵ですが、どのように選ばれましたか?

ペンダントは漆とガラスを使ったもので、木によく合うと思って選びました。 僕はこれまで、お客様の家に宮地電機さんオリジナルの照明器具をたくさん使ってきました。それが無くなったことが非常に残念です。亡くなられた宮地会長のモノづくりへの思いが好きで、お付き合いをさせていただきました。"Made in Kochi"が宮地さんの誇りであり、それを使うことが僕の誇りでもありました。今回もそれがあれば是非使いたかったですね。

空間空間

ガラスの質感が木と相性のよい、※ECOGLASS(エコグラス)をよくお使いいただきましたね。

宮地会長は、ご自分が作ったモノに対して、それに似合う家や部屋を探していたと思います。それは僕も同じで、木を見に行くと木が「俺を買え」と言ってくるので、在庫として持つのですが、それが大事。「この人に使ってもらいたい」「この家に使いたい」という場面が必ず出てきます。この柱、この1枚板のテーブルも、使いたいと思ったらお施主さんに「どうですか?」と伺って、それに合った家を造る。そうすると一期一会が生まれます。 宮地さんにも、こんな部屋に置いて欲しい、こんな人に使って欲しいという思いがあったと思います。そこは職人同士、分かり合えていたと思います。

エコグラス・マルチキューブ 遮光ロールスクリーン

※Multi Cube(マルチキューブ)の木製ポールでもお世話になりました。

傷みにくい木ということで、栗の木を使いましたね。

本当に長くパートナーシップを持っていただいているんですね。ありがとうございます。照明器具の入れ替えの際にも、しっかりとご提案させていただきますので、よろしくお願いいたします。 ところで、窓廻りについてはどのような工夫をしましたか?

西日を遮るために、遮光ロールスクリーンを選びました。南側の大きな窓は、奥様のセレクトです。

24時間換気を有効化するためには遮熱の方がいいんですが、このデザインには遮光しかなかったんです。これからはその需要も高まるので、作るべきだと思います(笑)
カーテンは、妻が「森にしたい」と言ったので、このシアーカーテンにしました。妻はアジサイが好きなので、寝室はアジサイのカーテンなんですよ。

窓の外はワンちゃんの遊び場になっており、外部からは見えないのでシアーカーテンのみにしました。軽い仕上がりになりました。

完成後は、随時見学もできるようにしたいと思っています。木の家は経年変化も楽しめますので、また見に来てください。

こだわりが随所に詰まったこちらの御宅は「完成した後も育ち続ける家」というイメージです。また是非拝見したいです。

色々な写真 株式会社白圡建築工房
〒780-0926 高知県高知市大膳町68 TEL:088-820-1009 FAX:088-820-1019

○ 写真/釣井泰輔「ツルイスタジオ」 ○ ライター/深田美佳 ○ 取材日/2019.10.01

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